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第四回コラム 稲垣 真奈(チェロ 副演奏委員長)

更新日:2021年2月16日


金曜の夜、ホール館416部屋を満たすバッハのコラール。約40名が一つ所に集まって音を奏でる。30分程前から行われるチェンバロのチューニング、綿密に行われる練習、終わってからの部 員同士の雑談、時には雑談の延長で晩御飯を食べに行くなんて事も。

だがそれらも今となっては懐かしい記憶に過ぎない。今年度は思いもよらない事態により演奏活 動の休止を余儀なくされたため、仲間達とは去年の定期演奏会から一度も会えていない。どこか 懐かしく、恋しい思い出をこの文章に綴っていきたいと思う。



 大1の春、普通なら入部する前に聞きに行くであろう新入生歓迎演奏会を聴きに行ったわけでもないし、先輩にクラブ内の様子や活動を聞いたわけでもない。それどころか「通奏低音ってなに?」という完全無知の状態だ。今思うととんでもない話である。(笑)

ただ、バハカンの存在を知って以来、何故か自分の頭の中には入部するという選択肢以外なかった。おそらく教会音楽やバッハの音楽が自分にとって身近な存在であったからだろう。という のも、私はクリスチャンで幼い頃から教会に通っていた為そういった音楽に触れる機会が多かった。馴染み深い音楽を堪能できる場があればどれほど幸せだろう。そんなわけで私はただバッハ が好き、という単純な理由だけでこの世界に浸かっていく事になるのである。

 毎週一時間半を使ってみっちりと行われる練習。隣に座っているチェロの先輩の見よう見まねで弾いてみるのだが、歌を聴けだの急いでるだのドイツ語の子音を待てだの。言われたことを自分なりに解釈してなんとなく直してみるも、次は主張しすぎてうるさいと言われる。何が正解なのかもわからない。音を斜めに、なんてこの世界に入るまで聞いたことも実践したこともなかった。



 そんな右も左もわからないような時期があっという間に感じる位、私は月日と共にバッハの虜になっていった。美しく、儚く、時に厳しいバッハの音楽は深めれば深めるほど魅了される。段々と 私の中にはバッハに対する敬意と愛とが芽生えていった。

ただ美しい音楽を奏でているわけではなく、その美しさを築き上げるための過程があるからこそ かけがえのないものとなっていく。



勿論仲間同士ぶつかり合う時もしばしばある。私も不満を覚えては幾度となく退部を考えた。けれども今振り返るとその衝突が自分自身の成長に繋がっていて、これまでの自分の価値観を見直すきっかけとなったように感じる。そしてその不満も消え去るほど、演奏会で聴衆と音楽を共有できた時の喜びは何にも代え難いのだ。



音楽を創り上げていく仲間がいること、演奏を披露する場があること、活動を楽しみにして下さっている多くのファンがいること。バハカンは本当に恵まれた環境である。



そのような喜びを実感すると同時に、バロックの世界にも興味を抱き始めた。通奏低音として チェンバロやオルガンと音を合わせた時により良い(音楽的な)一致を目指すには、当時扱われて たスタイルのチェロ(通称:バロックチェロ)を用いることが必須なのである。だが、モダンチェロと両立していく上でそれは自分にとって負担になるのではないか。そもそも技術や知識がなく未熟な私がバロックチェロをどう扱うのか。様々な不安があった。

しかしそれは想像以上に多くの益をもたらした。例えば作曲家たちが求めていた真の音色やフ レーズ感、アーティキュレーション、ハーモニーなどを追求しようとする意識。また音程やボウイングなどテクニックに関わる「恐れ」から解放され、演奏することに「喜び」を覚えるようになった。

そのような意識が高まると、ロマン派以降を演奏する時にも応用することが可能となる。当時音楽を生み出す事に苦しんでいた自分にとっては、バロック音楽を学んだことで音楽を創ることが 100倍いや10000倍楽しくなった。そしてなんといっても、クリスチャンである私には自分の心の支 えである聖書のテキストをより深く感じられるようになった。


 バハカンに入って本当に色々な出会いがあった、多くの感情を味わった。今それは自分の大きな財産となっている。周りを見渡してもバロック音楽を集中的に学ぶ場を設けている人は非常に少ない。言ってみればそれこそが大きなチャンスに繋がるかもしれないし、特権なのである。今日 の決心が自分の新しい音楽人生を切り拓くきっかけになるかもしれない。決して容易いことではないが、私はこの世界に触れることを自信を持っておすすめする。




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